知恩院庭園と常在光院

知恩院庭園と常在光院

友禅苑のあとは三門をくぐって知恩院中段エリアの方丈庭園へ。

長い階段を登り切ると、大修理中の御影堂があります。工事は順調に進んでいるようで、すでに素屋根は解体され、令和2年4月の落慶法要に向けて(のちに中止)仕上げの段階に入っているようです。ただ、このため方丈庭園へは武家門より入ることになります。

知恩院御影堂

知恩院の方丈庭園は大方丈と北奥の小方丈に沿った、瓢箪型の池を中心とした池泉鑑賞式庭園で、中程の橋を挟んで南池と北池に分けられます。一般的に小堀遠州と親交のあった玉淵と量阿弥によって整備されたとされています。

知恩院庭園と常在光院

こちらは南池、1989年、中根金作による根本修理があったそうですが、中島の立石はこの時に立て直されたと自身の著書で語っています。

知恩院庭園と常在光院

個人的にこの庭でもっとも景色がいいと思ったのは、奥の北池を北側より眺めたもの、大きな石島のほか、その左手にある滝石組まで見渡せます。じつは左の暗がりの中にも2枚構成の石橋があります。

そして北池のさらに北には「二十五菩薩の庭」があります。

二十五菩薩の庭

率直な印象として、知恩院ほどの大寺院のメインのお庭としてはちょっと違和感を感じます。どこかサブのお庭っぽいと言いますか、池泉鑑賞式のわりにこの庭の「顔」となるところが見えづらいこと、方丈の大きさに対して多少窮屈さを感じること、そして池を分断する橋周りの構成から、池が2つあるかのようになってしまっていることなど。

知恩院庭園と常在光院

この池泉中程の橋まわりについては、中根金作氏の著書に橋の横の大きな「慈鎮石」が後に三門あたりから運ばれてきたものであることが書かれていましたので、なるほどとちょっと納得しましたが、同時にこの庭は改変が多かったことも書かれており、調べてみたところ面白い資料を見つけました。2011年の発掘調査の報告書です。

それによるとまず知恩院の方丈が建つ以前、大小方丈と経蔵のあたりには15代執権北条貞顕が築き、後に足利尊氏が拠点とした「常在光院」が存在していたそうで、この庭は常在光院のものを再利用した可能性が高いとのことでした。

足利尊氏もその庭を気に入っていたという文献もあるそうで、そうなると尊氏とのつながりで実は夢窓疎石が絡んでいたのではないか、そんな妄想も膨らんでしまいます。

知恩院庭園と常在光院

とりあえず妄想は置いといて、実際の調査結果を続けると、上の画像松の前の石あたりは洲浜があった形跡が発掘されました。その洲浜は正面の灯籠に向かって細くなりながら延びていたそうです。

ちなみに灯籠は中根氏の修復時手前側にあったそうで、昔の絵図を参考に向こう側に移したとか。

知恩院庭園と常在光院

方丈との位置関係はこんな感じで、左が大方丈で奥が小方丈となりますが、手前の角の辺りも元は池だった形跡があったそうです。

これらを考え合わせると、常在光院時代は建物が今の方丈ほど大きくなく、その分北池はより広くて洲浜を伴った優美な庭園だっただけでなく、南池とも一体となった池泉形状をしていたが、知恩院の方丈建設時に埋め戻されてしまった…ということでしょうか。なんとも興味深い調査結果です。

知恩院庭園と常在光院

北池の対岸、石島の左手にはちょっとわかりづらいですが、滝石組があります。残念ながら滝石組の一部は不安定で崩落が起きかけているものの、直すにもなかなか難しい状況だそうです。

滝石組から中央の橋にかけての大きな護岸石組はちょっと夢窓疎石を感じる…といえばそんな気もしてくるでしょうか。このあたりには以前橋がかかっていた可能性があるそうで、もしかしたら中央部の橋はもともとその場所であったかもしれず、そうするとこの庭の顔はこの辺りをメインとした景色だったのかもしれません。

常在光院時代の庭、是非みてみたいものですが、こうして昔の姿を想像するのもなかなか楽しいものです。

知恩院庭園と常在光院

さて、現在の中央の橋を渡って上段の山亭庭園へ園路を登っていきますが、途中勢至堂の横を通ります。知恩院はもともと平安時代末期に法然上人が草庵を結び、弟子の源智が大谷寺を創建したのが始まりだそうで、その場所はこの勢至堂のあたりとされています。

知恩院庭園と常在光院

山亭庭園、京都の町を望む見晴らしのいい場所です。

京都だけが歴史のある場所ではないのですが、より多くの文献が残っていたり、今回のように綿密な発掘調査が行われたりして、庭園一つにしても様々な角度から楽しめるのはやはりすごいところと言わざるを得ません。

いつもとはまた違った楽しみ方ができた知恩院でした。

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