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モンデオST220に乗って 後編

さあ、モンデオST220の後半参りましょう、後半。



STシリーズを、フォードがスポーティグレードとしてアピールすることは、解りやすさが必要なマーケティング上仕方のない事かも知れないが、モンデオST220を単なるスポーツセダンと呼んでしまうのはあまりに相応しくないだろう。V6 3.0リッタークラスで、もっと速いセダンはあるだろうが、そもそもフォードには、そういった向きにはちゃんとRSというグレードが存在しており、STはクルマの価値がもっと幅広いものである事を教えてくれる。

このクルマに乗ると、STの狙いが決して走りだけを特化させたものではなく、そのシャシーを使った、フォードエンジニアの考える最高のモンデオパッケージを創ることにあり、しかもそのあらゆるドライバーを対象にした懐の広さが感じられるのだ。あくまでヨーロッパ・フォードの最上級セダンであるモンデオの最良形を目指したのであって、モンデオの形をした別物を作るつもりは全くない。だから決して乗り心地をないがしろにはしないし、シートも出来る限り優れたものを提供している。また、実用性や、助手席はもちろん、後部座席に乗る人の居住性も度外視せず、セダンである事を貫き通したクルマ造りなのだ。

STがスポーティであることは事実だが、スポーティさと言うのは、逆に言うと楽しさや安心感、アクティブセーフティにも直結する要素であるとも言える。事実STシリーズはNAVI誌のダイナミック・セーフティ・テストのような安全性のテストを受けても極めて高いレベルを誇ると言う。安い食材の味をソースや濃い味付けでごまかした料理のようなクルマが多い中で、旨いだけでなく実は栄養計算もしっかりなされた料理のような存在であると言えるだろう。こうしたことから、実はST哲学はセダンにこそもっとも相応しいのではないかとも考えさせられる。

デザインに目を移してみてまず思うのは、色んな制約から幅と高さの比率で高さが増え、ずんぐりしてきている昨今のセダンの中にあって、やはり2000年当時の幅比率の大きいカタチには安心感があること。多少無機質ながら精悍な顔立ちはセダンに相応しく、冠婚葬祭などの用途でも浮く事なくこなせるだろう。とてもよく磨き込まれた面と線を持ち、それが鉄板が硬く分厚いような印象を与えるし、イビツな造形がどこにもないのには好感が持てる。前期型より増量されたメッキパーツ部分は、ブラックボディには特に効果的のようで、高級感を演出し、変更されたリヤコンビランプの意匠は、ちょっとメルセデスっぽくなってしまったものの、前期型のベターッとしたものよりも格段に良くなっている。

ただ、ボディ前半分に比べてサイド後半からリア周りにかけては多少力感が薄れてしまっているように感じる。トランク部分の造形にももうひと工夫欲しいところだし、バンパーもちょっとボッテリしすぎている。またサイドのキャラクターラインが段々溶け込んで行く処理にしてもベストとは思えない。
インテリアに移ると、まずフォード車らしく視界が良い。インパネはとてもすっきりとして落ち着いた雰囲気。質感こそ平均点くらいだろうが、使い勝手は良く、GHIAのウッド系をよりもこちらのメタル系の方が造形に相応しいように思える。今後のヨーロッパフォード車は攻めたエクステリアデザインを展開するようだが、この使いやすさと実用性を兼ね備えたインテリアデザインは是非とも継承して欲しい要素だ。
ステアリングやシフトノブには赤いステッチが入るようになり、雰囲気と共に感触の質感向上にも貢献。ゲトラグ製のミッションは節度があって操作感も良い。

ただドアパネルはちょっと力が抜けてしまっただろうか、フィエスタのようなトータルマネジメントは感じられない。相変わらずフットレストは装備されていないが、フィエスタと違ってクラッチペダルの左側に左足を通すスペースはあるので、さほど気にならずに済むかも知れない。

室内の広さに関してはまず文句はなく、後部座席もさすがFFモデルだけあって広大と言っても良いくらい。ただし、広いだけに普段ほとんど後部座席に人を乗せる事のないユーザーにとっては、かなり罪悪感を感じるのも事実だ。逆に最近のクルマに比べて天地方向に関しては若干狭いかも知れないが、必要充分であるし、これを必要以上に高く取ると、先述の高さと幅の比率に影響するほか、太陽光が入りやすくなってしまい、バイザーを使う頻度が増えてしまう。

モンデオST220は、その運動性能においても、デザインにおいても、あらゆる用途やシチュエーションをカバーできる万能選手であり、実にオールマイティというセダンの鏡のような仕上がりを見せ、それを購入すると言う事は、まるで優秀な執事を雇ったような感覚だろうか。(雇った事はないが…)
個人的にこのように乗り心地が良く、クルージングが快適でしかも楽しいクルマは本当にツボだ。でも450万もの価格を出す事はとても無理。18インチのタイヤ交換にさえ難儀しそうだ。

幸か不幸かモンデオは既に次期モデルが発表されている。性能の点では当然新型が優れているはずだが、モンデオST220のような普遍的な価値を持ったクルマであれば、そのデザインやボディサイズが気に入ったのであれば、現行モデルを手に入れる事も決して損ではないはず。できれば50万ほどの値引きがあるとベターなのだが。また、この記事を書いた1週間ほど前には中古のモンデオST220が259万円で売られていた。このようにマイナーなだけに値落ちが大きいのも事実なので、我慢強く中古が出るのを待つのも手だ。

※燃費は約10km/lだった。恐らく都市部では8km前後、高速では100km/h時に2400回転程度である事から、13~4km/lは行くのではないだろうか。

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モンデオST220に乗って 後編」への6件のフィードバック

  1. さすがkahanさん、モンデオの硬質でキレのいい存在感がよく伝わる写真がお見事です。3ボックスサルーンの造形としてバランスがよく、プレミアムに名を借りた余分な贅肉がない点はフィエスタ同様に好感が持てるものです。しかしフロントのST220バッジの位置だけは?ですね~

  2. ロボ部長さん>>
    ホントに長く乗れそうないいくるまでしたよ。こういうクルマが評価されないってことは、言ってみれば日本ではまだまだクルマを使い切れていないって事なんでしょうね。

  3. れいんさん>>
    いや、いいですよ、これは。中古の250万円はかなり揺さぶられました。でも維持ができなさそうで…

  4. 罪作りなkahanさん!レポ読んでかなり心揺さぶられました(^^ゞ
    う~む、親父がV6ghia乗ってなきゃ「清水の舞台」から飛び降りるんだけど。。。
    F・C・Eでどうして試乗しなかったのかかなり悔やんでいます(*_*;

  5. ヨコモンさん>>
    これはですねー(ムツゴロウさん風に)"ちょうどいい事の気持よさ"が満載なんですよー。だから永く使えそうなんです。現行GHIAで感じた「高級になり切れない実用車」的なちょっとしたアンバランス感がすべて解消されていて…みなまで言うなって?(笑)
    でもきっと次のモンデオも良いはずですよ。STはどれくらい遅れて出るんでしょう?でも、現行STの試乗の機会くらいはあるといいですよね。次期モデルを買われるにしてもその方が納得できると思うんです。

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