マックルーアのワルター

つい先日7日に発売になったマックルーア・マスタリングのワルターを入手した。



少し前にも紹介した「ブルーノ・ワルター 没後45年特別企画」のものだ。
今回ゲットしたのはベートーヴェンの田園交響曲とモーツァルトのリンツと第39番。演奏の内容は言い尽くせないほど素晴らしく、中学時代からの長年の愛聴盤でもある。田園交響曲は90年代前半に発売された(と思う)もの(30DC743)と、昨年11月に発売されたDSDマスタリングのGoldCD(SICC573)を比較。モーツァルトはリンツを83年に発売された同じ音源のマックルーア盤(35DC74)同士で比較してみたい。

いままでDSDマスタリングをウリに販売してきたSONY技術陣にとって、今更25年も前のマスタリング音源を望む声が大きい事は、果たしてどのように受け取られているのだろうか。それでもマックルーア盤は限定ながらもこうして発売された。その待ち望んでいた音源は確かに素晴らしいものか、または記憶の中で美化されたものに過ぎないのか。

まずは田園。古い国内盤を聴いてみるが、比較するまでもなく音が悪い。録音が古いと言う以前に何度もダビングを繰り返したかのような眠さだ。
次にDSD盤、再生が始まるとサーッというノイズが目立つ。ノイズ自体は本来あるべきものだが、Jazzにしろクラシックにしろ、古い音源のマスタリング盤は総じてこのノイズが大きく、受け入れ難いほどのものも多い。田園もやや大きめの部類に入り、分かってはいてもガッカリする。その分他の音が良ければいいのだが、全体としてかなり硬質で、乾き切って油が抜けてしまったような音だ。確かにヌケは良くなっているものの、画像で言うと、輪郭を際立たせようとしてシャープネスをかけすぎてしまった感じ…と言えばいいだろうか。大きな音量で慣らしていると疲れやすいし、管楽器もケースによっては聴くに耐えないほどキンキンな時もある。

最後にマックルーア盤。全体の雰囲気は古い国内盤により近く感じるものの、色彩感があって音楽が楽しい。音のヌケや立ち上がりはDSD盤に譲るが、音楽を楽しむには断然マックルーア盤だろう。ただ、この演奏自体あまり録音が良くなかったのか、またはマスターテープの状態が悪かったのか、マスタリングにはかなり苦労しているような印象を受ける。
やはりマックルーア盤は評判どおりの仕上がりのようだが、ここで同じマックルーア音源同士の比較をしてみよう。ここでの興味は先に立証された素晴らしい音源を、現在の技術でCD化すればどうなるか…というものだが、新マックルーア盤にはいっさいマスタリングが施されていないと言う。
これは結果から先に言うと、なんと古いCDの方が音が良かった。より艶があって緻密でかつ伸びやか。リンツは田園以上に録音がいいらしくて実に楽しめる。結局素人ながらも考えられるのは、マスターテープの劣化が原因ではないかと言う事。これはJazzの復刻企画やビクターのXRCDでも確実に存在するものだ。

ソニーはマックルーア氏の仕事を尊重して、その音源に手を加えないようにしたのだろう。それは分かるし賛成だ。ただし個人的に行なって欲しかったのは、そういったマスタリングではなく、CDというフォーマットに読込ませるための最適化マスタリングだ。いかにマックルーア氏と言えども83年当時ではCDのもつキャパシティを完璧に理解していたとは言えないだろう。ベースそのものはレコードへの出力を意識したものなのではなかっただろうか。
写真にしてもモニタで鑑賞してもらう場合と、印画紙、印刷媒体と出力するフォーマットが違えば色調などに手を加えて、作者の意図をより反映させるように、音楽でも、この素晴らしい音源を、CDという新しいフォーマットへ適合させるために、四半世紀にわたって培ってきたノウハウを反映させつつ試みてもらいたかった。マスターテープ(ここではマックルーア音源)の劣化は避けられないものではあるが、そうすれば83年当時のCDとはまた違った価値が生まれていたかもしれない。マスターが古い事は同じでも、JazzにおけるRVGリマスターの出来がなかなかいいのは、そういったところにも理由があるのだろうか。
でも、現時点でワルターを楽しむにはこのマックルーア盤が最良の選択のひとつになるだろう。限定盤とのことなので購入はお早めに。マスターテープはこうしている今でも着々と劣化しているのだから。

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