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フォード・フォーカスST(再)

去年の今頃はちょうどフォードのサーキット・エクスペリエンスで盛り上がっていた頃。



今年は何もなく寂しいけれど、それは置いといてほぼ1年振りにフォーカスSTに乗る事ができた。1年前にも感想は書いたけれど、サーキットでのチョイ乗りなどは路面状態が全然違うのであてにならず、個人的にも走り慣れた道で体験してみたかった。また、所有しているフィエスタSTに先日のモンデオSTと来ているので、今度のフォーカスでSTシリーズを完結させて、よりST哲学の理解を深めたいというのもあった。結果的に走り慣れたところで試したのは正解で、フォーカスSTは恐るべき足回りの性能を披露したために、いつもなら荒れているはずの路面が、ごく普通の状態のように感じてしまう。これが知らない場所なら、フォーカスSTのおかげと知らずに通り過ぎていた事だろう。

フォーカスと言えば、世界ラリー選手権のチャンピオンマシン。どんな性格付けがなされているか自分なりに想像し、過激な一面を予測していたが、実際は「洗練」という言葉が相応しいものだった。

まず、エンジン。ボルボT5のエンジンと聞いて、直5と言えどさして期待していなかったのだが、わき上がるパワー、上質なフィール、痛快なサウンドと相当のものだった。STシリーズと言うと、まずハンドリングという印象があるが、なかなかどうしてフィエスタにしてもモンデオV6にしても、そのエンジンチューニング技術は一流だ。フォーカスの直5エンジンは、フィエスタSTのようにカーンと響くものではなく、シルキーでモリモリっと出るタイプだが、STらしくアクセル操作に対する反応は抜群で、コーナリング時の姿勢変化もしっかりと楽しめる。ただし燃費性能に関しては数少ない欠点のひとつと言わざるを得ない。とくに日本に於いては排気量によるハンデもあるので、マツダの2.3リッター直噴ターボを積むのもいいんじゃないだろうか。上質さは多少劣るかも知れないが、その分レスポンスが向上すればフィエスタのような軽快さが備わるだろうし、エンジン本体が軽量であればメリットも多いはず。

次に足回り。フォーカスSTの洗練度を高めているのはエンジンのおかげもあるが、やはりこの足回りの性能が大きいだろう。低速でも高速でもしなやかでいながらシッカリと腰のある快適な乗り心地は、スポーツモデルと言えどノーマル以上。そのフィーリングからはとても225/40R18ものサイズのホイールを履いているとは思えない。それでいて曲がる事は大得意で、荒れた道でも常に路面を捉え続けながらぐいぐいと曲がって行くが、その挙動はあくまで穏やか。それでいて楽しさをスポイルさせることのない仕上がりは、STをもっともSTたらしめる美点と言えるだろう。モンデオもそうだが、STの足回り強化は、快適性を犠牲にすることで性能をアップさせるのではなく、快適性をも同時に引き上げるものなのだ。

ブレーキも実にいい。とくにブレンボなどの名前がつくわけでも、大仰なメカニズムを採用しているわけでもないのだが、どこまでもコントローラブルで、効きもフィールも申し分ない。もちろんブレーキング時の挙動も安定しており、このブレーキに対する安心感が、フォーカスSTのドライビングをさらに楽しいものにしていることは確かだろう。

ずば抜けた長所と比べると、目をつぶれる程度ではあるもののあえてフォーカスSTの欠点を挙げるとすれば、ひとつは乗降性、もうひとつはボディサイズだろうか。1年前に不満だったシフトフィールは結構改善されているように思った。

フォーカスSTの乗降性は、日本に導入されているのは3ドアのみということもあるが決して良いとは言えない。ただでさえ長大なドアは重量もあって狭い駐車場での扱いがシビアなだけでなく、サイドシルの幅が広い上に、シートの張り出しも大きいものだから相当にまたぐ必要がある。後部座席へのアプローチはさらに悪く、シートの張り出しのために椅子がうまく倒れないので、前にスライドさせないと入り込む空間を確保できない。フィエスタSTのシートを見たとき、十分なホールド性を持ちながら、張り出しを極力なくしていることに、実用性を犠牲にしないSTらしいと感心したものだが、これでは他社のスポーツモデルと何ら変わらない。シートのかけ心地自体は極上だが、もう一歩STらしい答えを出してもらいたかった。もしくは今更だが、ヨーロッパでは扱われている5ドアのSTもラインナップされていればと思った。

次にボディサイズだが、やはりいくらなんでも1840mmという全幅は気になる。それによるワイドトレッドがSTの高性能を支えている要素であることは理解できるが、できれば1780mm程度に抑えて欲しかった。たった60mmだが、クルマを縦に輪切りすれば、たとえ60mmと言えどそれなりの重量になるはずで、その分軽量化できたならまた違ったメリットもあったのではないだろうか。

フォーカスSTはさすがSTシリーズの最新モデルとあって、申し分のない性能をみせつけてくれたが、それでも個人的にはフィエスタSTの方が好みだ。フィエスタSTの底抜けに明るい性格はやはり捨て難いものがある。でも、こうして車格にとらわれず、積極的に好きなモデルを選べるのも、クルマの総合力を高めるというSTシリーズの魅力と言えるのではないだろうか。

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フォード・フォーカスST(再)」への2件のフィードバック

  1. Kahanさん、こんにちわ。
     FocusSTの燃費性能は、実際にどれくらいだったもですか?高速だけだとどれくらいだろうというのを、教えていただければ幸いです。
     中古車市場を見ていると、FocusSTは、台数がフィエスタSTやモンデオST220より売れているのは勿論としても、短期間で手放している一般ユーザーが多いような気がします。私がチョイ乗り試乗した感じでは、低回転からトルクがあることが逆に刺激が足りないような気がしましたが、どうでしたか?新車乗り出し価格400万円以下で、ポルシェを追いまわせることがこの車の売りのような気がします。こういう状況がないと所有欲を満たしてくれないのではと思い、食指がモンデオST220ほど動きませんでした。
     

  2. >>STに恋するMさん
    すみません、なかなか高速単独だけはなかったのと、キチンと測ってなかったのでほぼ憶測ですが…。
    100km/hで約2500回転満たないくらいだったので、燃費走行をしようと思ったらそれなりにいくと思います。それでも12キロくらいかな?これが回すととたんに落ちますね。フィエスタのタンクが45リッター。フォーカスは55リッターなんですが、目盛り上での減り方がフィエスタよりも早かったんですよ。おそらく通常は7~8キロ、都内だと6~7キロまで落ち込むんじゃないでしょうか。
    刺激が少ないとは思わないですよ、ただ乗り心地はいいし、トルクもあるのでランエボやタイプRなどを想像している向きには合わないかもしれません。美しく走る事に楽しさを感じるクルマです。
    中古車は、そうですね、フォーカスSTは富士での試乗会もありましたし、これまでのSTに比べて格段に広報車や試乗車が多かったためというのもあると思います。
    極上のエンジニアリングを体験したい!という場合には依然オススメのクルマだと思います。

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