7月にバックハウスの未発表ライヴが発売されていると聞いて、早速ポチっと注文。
ヴィルヘルム・バックハウス(Wilhelm Backhaus)は、中学の頃に友人から教わって以来、ずっと大好きなピアニスト。
間違いなく20世紀を代表するピアニストではあるんですが、彼のスタイルは、ベートーヴェンの解釈に最も近いとか、アゴーギクがほとんどないなどと評される一方で、何もしないとか、弾き飛ばすと言われたりもしています。「鍵盤の獅子王」などと言う異名をとってしまったことが、妙なイメージづけをしているような気もしているのですが、これらの評はどれも当たっているようで、でも的を射ているとまでは言い切れないものがありました。
確かに、バックハウスの音楽は他とちょっと違っていますよね。これはまったく個人的な見方なんですが、自分はバックハウスの演奏は「祈り」だと思ってるんです。なので、音楽の向かっている方向が違うと言うか、要するに「これが俺様のワルトシュタインだ!」のような自己主張とはちょっと無縁なわけです。
しかもそこへ持ってきて抜群に美しいその音色、彼の中では磨き上げた音を紡いでいくことこそが、曲を弾くと言うことだと考えていたんじゃないか…そんなふうに感じています。Wikiに掲載されている「暇な時は何をしていますか?趣味は何ですか?」という質問に「暇な時はピアノを弾いていますが…」と答えたと言うエピソードや、ずっとベーゼンドルファーにこだわってきたことなども、音そのものへのこだわりが感じられ、そのための練習をひたすら積み重ねてきた裏付ともとれます。こうして紡ぎだされた音楽と言うのは、表面的な表現がない分、悠然とした普遍性が備わって、まったく飽きがこないんですね。Kahan流に言うと、他のピアニストが江戸時代の建築なら、バックハウスは奈良時代の建築と言えるでしょうか。
それでいて、バックハウスのリズムには独特のグルーヴも感じるんです。ちょっと遅れて出るようなタイム感覚と言うんでしょうか、これがまた自分にはとても心地いい…。なので、ベートーヴェンの音楽に忠実と言われますが、結構自分のスタイルも確立しちゃってるようで、これも結局は練習の賜物なんだと思います。バックハウスのベートーヴェン・ソナタ全集は新盤と旧盤があって、「鍵盤の獅子王らしい」と、旧盤を薦める声も多いんですが、自分は祈りの音楽としてより昇華された新盤がお薦めです。
さて、購入したCDですが、1969年(なんでジャケの写真は若いんだ?)、亡くなる3ヶ月前のベルリンでのライヴ録音で、すべてが初出。オールベートーヴェンなんですが、まず曲目が良く、田園、ワルトシュタイン、30番に加えて、およそ2ヶ月半後の「最後の演奏会」では最後まで弾けなかった18番もあります。ステレオでマスタリングが施されて音質も良く、豊かで分厚い演奏を楽しめる、素晴らしい発掘音源です。ただ、当日はベーゼンドルファーの調子が悪かったんでしょうか、代わりにベヒシュタインを弾いているそうで、何と言うか「ジョーン」のはずが「ジャァ~ン」になってしまっています。ベヒシュタインがダメと言うのではなくて、やはりバックハウスはベーゼンを前提に構築されてるのかな…と言う気はしました。
それにしても、こういったライヴ盤を聴くとなおさらなんですが、バックハウスはナマで聴きたかったですねー。自分の生まれる2ヶ月前に亡くなってるんでまったく無理な話ではあるんですが、せめていつかはオリジナルのLPを聴いてみたいです。
さっそく注文しちゃいました。楽しみ〜!
>>ブラ〜ンビロ〜ンどの
相変わらず熱心なおかた…。実際弾いている人とはちょっと感じ方が違うかもしれないねー。でもこれ、ベヒだし気に入ってもらえるかも。