やはりユーノス500の価値はそのデザインにある。今にして思えばそのデザインにしてもそれなりに古さを感じさせる部分もあるし、プロポーションにしても満点というわけではない。
それでもこのクルマのデザインが素晴らしいというのは、確かにフォルム自体もさることながら、多くの要素をきちんと消化し、シンプルにまとめ上げている点にあると考える。
つまりエレガントでありながら、スポーティということ。周りを見渡せばエレガントなだけ、或はスポーティなだけのカタチならいくらでもある。しかしそれらのなんと薄っぺらいことか。ユーノス500はそれらの複数の要素を高次元で融合させているのみならず、4ドアセダンとしての実用性もキープし、なおかつ小型車枠に収めているというその離れ業を実現しているのだ。それがユーノス500のカタチに深みを与え、大きな価値を生み出していると言える。そのために必要な小技の数々はTHE MASTERPIECEを読んで頂ければいいとは思うが、この価値はやはり永遠に不滅であると思うし、カーデザイナーは表面だけでなくそのことを理解して欲しい。お客様優先の思想や、ユニバーサルデザイン…確かに結構だ。しかしそういった理屈のメカニズム以前のものを理解し魂を込めて欲しいと思う。
しかしながらそのデザインとは裏腹に、ダイナミクスの部分については融合しきれなかったところがユーノス500が結局「国産車」の範囲を突き破りきれなかった理由でもある。確かにエンジンは絶品だが、パワーがあるとか、サスペンションが凝っているなどといった一方向深入り型は国産車の典型で、明らかにバランスに欠いており、結果デザインほどの思想が感じられない。そして思想のないメカニズムは古くなるのも早いのだ。
広島の寿司屋で店主と話をした時に、彼はこう言っていた。「われわれ寿司屋でもなんでもまじめに仕事をすればするほど、儲からないもんなんですよ」
今世界的にみてもトヨタの独り勝ち状態にあり、今後はヨーロッパのクルマも組織も遅かれ早かれトヨタのようになっていくのでしょう。1990年代前半がユーノス500のようなクルマの生まれる最後のチャンスだったのかも知れない。